ICIDHとICFの違い:心と体の健康を理解するためのツール

皆さんは、病気やケガをしたとき、どのように自分の状態を説明しますか?「頭が痛い」「足が動かない」など、症状を伝えることもあれば、「会社に行けない」「学校に行けない」など、日常生活への影響を話すこともあるでしょう。実は、病気や障害を理解し、記録するための国際的なツールとして、ICIDHとICFというものがあります。これらは似ているようで、少し違うところがあります。今回は、ICIDHとICFの違いについて、わかりやすく説明します。

ICIDHとICFの違いを簡単にまとめると、以下のようになります。

  • ICIDH(国際障害分類)は、病気やケガによって「何ができなくなったか」に注目します。
  • ICF(国際生活機能分類)は、病気やケガによって「何ができなくなったか」だけでなく、「何ができるようになったか」や、周りの環境がどのように影響しているかにも注目します。

ICIDHとICFの4つの大きな違い

1. 着目点の違い

ICIDHは、病気やケガによって生じる「障害」に焦点を当てていました。例えば、病気で足が動かなくなったら、「歩行障害」というように、マイナスな部分に注目します。一方、ICFは、病気やケガの影響を、より広い視点から捉えます。単に「歩行障害」だけではなく、歩行が「どれくらいできるか」、周りの環境(例えば、段差が多いか、バリアフリーかなど)がどのように影響しているかなども考慮します。

ICIDHは、障害を「病気やケガの結果」と捉え、主として「病気」「障害」「社会的ハンディキャップ」の3つの側面から病気や障害を評価しようとしていました。一方、ICFは「心身機能」「身体構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」の6つの側面から生活機能を多面的に評価しようとしています。

この違いは、まるで写真のピントの違いのようです。ICIDHは、障害という特定の点にピントを合わせた写真、ICFは、全体的な生活の様子を捉えた写真と言えるでしょう。

2. 視点の違い

ICIDHは、病気やケガによって「失われたもの」を主に見ていました。そのため、どうしても「マイナス」な視点になりがちです。一方、ICFは、「できること」「残された能力」にも目を向けます。例えば、足が動かなくなっても、車椅子を使ったり、誰かの助けを借りたりすることで、色々なことができるかもしれません。ICFは、そのような「できること」に光を当て、より前向きな視点を提供します。

ICIDHでは、障害を固定的なものとして捉えがちでしたが、ICFは、環境や個人の努力によって、生活機能が変化する可能性があると考えます。これは、まるで、風景を眺める視点が、固定された窓から、自由に動ける窓になったようなものです。

ICFは、障害を持つ人々の「可能性」に着目し、より包括的な視点から生活を評価します。

3. 環境因子の考慮の有無

ICIDHは、病気やケガの影響を、個人の「障害」に焦点を当てていましたが、周りの環境(例えば、バリアフリーになっているか、周囲のサポートがあるかなど)については、あまり考慮していませんでした。ICFは、環境因子を非常に重要な要素として捉えています。例えば、車椅子に乗っている人が、段差のない道を通れるかどうかは、その人の生活に大きな影響を与えます。ICFは、環境が、生活機能にどのように影響するかを考慮し、より現実的な評価を目指します。

ICFでは、環境因子として、物理的な環境(建物、交通機関など)だけでなく、社会的な環境(家族、友人、地域社会、制度など)も考慮されます。まるで、個人の生活を、周りの人々や社会全体との関係の中で捉えるようなものです。

ICFは、障害を持つ人々の生活を、より多角的に捉え、包括的な支援につなげるためのツールです。

4. 目的の違い

ICIDHは、病気やケガによって生じる障害を分類し、記録することを目的としていました。これは、医療やリハビリテーションの現場で、患者の状態を把握し、治療や支援の計画を立てるために役立ちました。一方、ICFは、単に記録するだけでなく、個人の「生活機能」全体を評価し、より良い生活を送るための支援につなげることを目指しています。例えば、どのような支援があれば、より活動的に生活できるか、社会に参加できるかなどを検討します。

ICIDHは、主に医療関係者向けのツールでしたが、ICFは、障害を持つ人自身、家族、地域社会など、幅広い人々が活用できるツールです。これは、病気や障害を持つ人々の「自己決定」を尊重し、主体的な生活を支援するための大きな一歩と言えるでしょう。

ICFは、より良い生活を送るための「羅針盤」のような役割を果たします。

ICIDHとICFに関連するその他のポイント

ICFの構成要素

ICFは、以下の4つの主要な構成要素で構成されています。

  • 心身機能と身体構造: 心身の機能(感覚、運動、精神機能など)と身体の構造(器官、四肢など)。
  • 活動: 日常生活での行動(歩行、食事、会話など)。
  • 参加: 社会生活への関与(仕事、教育、趣味など)。
  • 環境因子: 物理的環境(建物、交通機関など)と社会的環境(家族、友人、制度など)。

これらの要素が相互に影響し合い、個人の生活機能を形成します。

ICFの活用

ICFは、様々な場面で活用されています。

  • 医療・リハビリテーション: 患者の状態を包括的に評価し、適切な治療や支援計画を立てる。
  • 教育: 障害のある子供たちの学習環境を改善し、学校生活への参加を促す。
  • 社会福祉: 障害者向けのサービスや制度を設計し、社会参加を促進する。
  • 研究: 障害に関する様々な研究を行い、より良い支援方法を開発する。

ICFのメリット

ICFを活用することで、以下のようなメリットがあります。

  • 包括的な評価: 生活全体を多角的に評価し、個々のニーズに合った支援を提供できる。
  • 共通言語: 医療関係者、教育関係者、福祉関係者など、様々な専門職の間で共通の認識を持つことができる。
  • 自己決定の尊重: 本人の意思を尊重し、主体的な生活を支援することができる。
  • 社会参加の促進: 社会環境を改善し、障害のある人々の社会参加を促進する。

ICFの限界

ICFは非常に有用なツールですが、万能ではありません。以下の点に注意が必要です。

  • 複雑さ: 包括的な評価を行うためには、専門的な知識や技術が必要となる場合がある。
  • 解釈の幅: 環境因子や個人因子など、解釈が難しい要素が含まれる。
  • 普及度: まだまだ十分に普及していない地域や分野がある。

結論

ICIDHとICFは、どちらも病気や障害を理解するための重要なツールですが、その着目点や目的は異なります。ICIDHは、障害に焦点を当て、医療現場で活用されてきました。一方、ICFは、生活機能全体を評価し、より良い生活を送るための支援につなげることを目指しています。ICFは、障害を持つ人々の可能性を最大限に引き出し、社会参加を促進するための、より包括的なツールと言えるでしょう。